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「web-magazine GYAN GYAN」では、第三者的な視点でロックを検証してきましたが、当サイトではプライベートな感覚で、より身近にロックを語ってみたいと思います。
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  ★ プロフィール
HN:
matsuZACK
年齢:
62
性別:
男性
誕生日:
1962/02/15
自己紹介:
matsuZACKです。
“下天のうちをくらぶれば~”の年齢に到達してしまいました。
ミュージシャンを目指したり、
音楽評論家や文筆業を目指したり、
いろいろと人生の奔流に抵抗してきましたが、
どうやらなすがままに、
フツーの人におさまりつつあります。
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★2008/09/10 (Wed)
2、シド・バレットの遺産

 カリスマとして賞賛されるが、満足な結果を残せない自分との葛藤。グループの意向をまったく無視した、ミスマッチなブッキング。シド・バレットは次第に、演奏することに対して、強力なストレスを感じるようになっていった。そして、ストレスのはけ口をドラッグに求めたのである。ジミ・ヘンドリックスやブライアン・ジョーンズと同様の悲劇が、ここでも起こりつつあったのだ。
 当時のアメリカは、ドラッグ・カルチャーの真っ只中。ありとあらゆる種類のドラッグが、容易に入手できたといわれている。しかし、耐性のないイギリス人がイキナリ手を出すには、少しばかり刺激が強過ぎたようだ。それでなくても繊細な神経の持ち主だったシド・バレットは、少しずつ精神に変調をきたし始めてしまったのである。
 グループがツアーの続行を不可能と判断するまでに、それほどの時間はかからなかった。ピンク・フロイドは、1967年のアメリカ・ツアーをスケジュール半ばで中止。この時点で、すでにシド・バレットの状態は、回復不可能なレベルまで悪化していたといわれている。イギリスに帰国したピンク・フロイドは、フランスでファッション・モデルをやっていたデイヴ・ギルモアを加入させ再出発を図った。そして、シド・バレットは、1968年3月、正式にグループから脱退。2枚のソロ・アルバムを発表した後、音楽界から完全に姿を消してしまった。
 そして、彼の精神状態は2度と回復することがなかったのである。しかし多くのファンは、シドが去ったグループに対して、彼の幻影を求め続けたのだ。
 この時点で、ピンク・フロイドというグループは、シド・バレットの遺産を継承しなければならない宿命を背負わされてしまったのである。

 再出発を図ったピンク・フロイドは、1968年3月『A Sauceful Of Secrets(神秘)』を発表。新たに加入したデイヴ・ギルモアは、“きちんとギターを弾くことができる”ギタリストであり、これ以降グループ全体のテクニック向上を牽引していくことになる。映画のサントラ『More(モア)』をはさんだ1969年10月には、2枚組の大作『Ummagumma(ウマグマ)』を発表。ライブ録音のA面では、シド・バレットの作品を見事に再生させている。グループの音楽的な才能が、開花し始めたのだ。
 そして1970年10月、『Atom Heart Mother(原子心母)』を発表。全英チャート1位に輝いたこのアルバムをきっかけとして、ピンク・フロイドの名前は一躍メジャーな存在になるのである。ドラッグ・カルチャーから生まれたサイケデリック・ミュージックは、より芸術性を高めたプログレッシブ・ロック(前衛的なロックを意味する)へと発展し、ピンク・フロイドはプログレッシブ・ロックをリードする存在になったのである。
 『Atom Heart Mother(原子心母)』は、オーケストラを導入しA面すべてを使ったタイトル曲が話題になったが、メンバーそれぞれが曲を提供したB面の小曲群にも注目すべき点が多いのだ。ロジャー・ウォーターズ作の「If(イフ)」、リック・ライト作の「Summer '68(サマー68)」、デイヴ・ギルモア作の「Fat Old Sun(デブでよろよろの太陽)」。
 中でも、ロジャー・ウォーターズ作の「If(イフ)」は、重要なメッセージを発信している。

 もし、僕がひとりぼっちだったなら、きっと泣いてしまっただろう
 でももし、君といっしょだったなら、泣かずに家に帰っただろう
 でももし、僕が気が狂ってしまっても、君はまだ僕を仲間に入れてくれるだろうか

 シド・バレットは、その豊かな才能ゆえに、“彼岸の世界の住人”になってしまってからも、多くの人々から慕われている。ロジャー・ウォーターズは、それを自分に当てはめてみたのである。自分が“彼岸の世界の住人”になったとしたら、シド・バレットと同じように多くの人々から慕われ続けるだろうか?自分にシド・バレットと同じレベルの才能があるのだろうか?
 当時のロジャー・ウォーターズには、まったく自信がなかったのである。彼は、アコースティック・ギターの弾き語りによるソフトなこの曲で、その心境を淡々と語った。
 ロジャー・ウォーターズは、若くして“彼岸の世界の住人”になってしまったシド・バレットの才能を惜しみ、哀惜の念に耐えられなかったと言われているが、そうではないだろう。むしろ、若くして“彼岸の世界の住人”になってしまったシド・バレットに対して、憧憬のまなざしを送っていたのである。
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